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『美空ひばり/ジャズ&スタンダード』美空ひばり <2> [音楽の聴き方]

(つづき)

ここに収められているのは1953〜1965年までの音源で、
年齢でいえば16才から28歳のもの。
つまり彼女のキャリアの中ではほんの前半部分に過ぎないんですよね。

しかし限定された期間ではあるけれど、
そこには確かに美空ひばりのシンガーとしての変化がみてとれる。
そこで収録曲を録音時期別に分類してみる。

●1953年(16才)「上海」「アゲイン」

アルバム中最も初期に録音されたこの2曲のみ、
チリチリ…というノイズがかなり目立つ。
誰かがたき火でもしてるんじゃないかというくらい。
古い録音なので仕方ないが、CD化の段階でもう少しなんとかならなかったのかな。
まあ、僕はなぜかあまり気にならないですけど。
これだけ潔くやられると、かえって効果音のひとつみたいでいい。
むしろこのチリチリが、当時の時代の空気感みたいなものも一緒に甦らせてくれ、
余計にノスタルジーを誘う部分もある。

まだ少女のあどけなさも残る歌い方は、
いわゆる美空ひばりといってイメージする中性的な声ではなく、
女性的なしなやかさ、繊細さが感じられ、新鮮である。
それはまだスタイルが確立されてないからなのか、
あるいはジャズという異なるジャンルだからなのか、
このアルバムだけでは判断できないが。

それにしても16才でこの表現力、何なんでしょうか。
また、知らないで英語の部分を聞いただけでは、きっと外人だと思ったかも知れない。
ネイティブの人にしてみれば、それでも発音に甘いところがあるのかも知れないが、
少なくとも僕は全然違和感を感じなかった。

ビリー・ホリデイエラ・フィッツジェラルドを手本にしたそうだが、
そう聞くと、確かにお手本を丁寧になぞるような歌い方にも聞こえなくはないし、
その緊張感は、何かに必死にしがみついているがゆえのような感じもする。
でも、そんなことは余り関係ない。
この2曲が素晴らしいことに変わりはない。

美空ひばりらしくないという点で、余計な先入観に邪魔されず、
すっと胸に落ちてくる。
特に「アゲイン」は曲の良さもあって五臓六腑に沁みます。

 

●1955年(17才)「ばら色の人生」「A列車で行こう」 
●1956年(18才)「愛さないなら棄てて」「愛のタンゴ」

「上海」「アゲイン」の頃からまだそんなに経っていないにもかかわらず、
随分大人びた印象がある。
この年代の娘って1年で凄く変わったりするものだけど、
彼女の中で何かが劇的に変化したんじゃないかという気がする。
ここではすでにひばり節も聞かれ、完全に個性を確立している。
それどころか女王の貫禄すら備えている。

とにかく誠実で真摯な歌い方に好感を覚える。
「A列車で行こう」
のような軽快な曲でも、
生真面目なルーズさで、緊張感を保ったまま見事なスキャットを聴かせる。

 

●(1961年/24才)

「虹の彼方に」「ラブ・レター」「アイ・ラブ・パリ」
「セ・マニフィック」「クライ・ミー・ア・リバー」
「ダニー・ボーイ」「ブルーベリー・ヒル」「慕情」
 

無条件で素晴らしい。

ここでの彼女は歌に身を捧げた求道者といった感すらある。
「虹の彼方に」「ラブ・レター」を聴いてみてほしい。
これだけ真剣に歌われたら、こちらも居ずまいを正さなくてはならないような、
そんな緊張感がある。
まるで鋭利な刃物を突き付けられている感覚である。
彼女自身、死の覚悟を持って聴くものに真剣勝負を挑んでいるかのようだ。
この緊張感は、まさにロックだ。

このアルバムだけで判断するのはどうかと思うが、
おそらく彼女のキャリアの中で最もノっている時期の録音なのではないか。
まるで大きな鉱脈を発見したような気持ちだ。

表現者としての彼女は頂点を極めているように感じられる。
歌を極めようとする気持ちが極限に達し、歌に命が宿る。
そこにはテクニックと感情の最も幸福な出会いを感じることができるだろう。

 

●(1965年/28才) 「恋人よ我に帰れ」「スターダスト」

この時期の彼女はすでに完成されてしまっており、
余裕というか、何かすでに安定期に入った印象がある。
そういう意味ではいくぶん(相対的に)緊張感に欠けるきらいもある。

テクニック的にはまだまだ向上し続けているのだろうが、
1961年頃の、命懸けの恋のような感情の表出が押さえられ、
正直「うまいなあ」とは思っても、「凄いなあ」とまでは感じない。

テクニックと感情の関係を男女関係に例えるなら、
燃えるような大恋愛時代は過ぎ、
結婚して年月を重ねた二人は、新たな関係性へと変化してきたということなのだろう。
それはそれでひとつの幸せのあり方だとは思うし、
どちらがいい悪いという問題ではない。
好みの問題だ。

しかしよく聴いてみると、
芸能界にどっぷり浸かり、酸いも甘いも知り尽くした、
トップスターならではのダシがにじみ出ていて、
これはこれで味わい深いものがある。

というとなんだか円熟期を迎えたベテラン歌手のようだけど、
このときまだ28なんですよね。
それにしては随分ダシが利いてるなぁ。

★Today's Set
1. アゲイン(美空ひばり)
2. 上海(〃)
3. A列車で行こう(〃)
4. 愛のタンゴ(〃)
5. 虹の彼方に(〃)
6. ラブ・レター(〃)
7. 慕情(〃)


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ひぐらし

古いブログにコメントしてすみません。
ニコニコ動画のニコ生で放送している(現在は休止中)ひぐらしと言います。
ひばりさんの上海を検索していて、当記事を拝見させていただきました。

いま、このCDを聴きながらコメントしています。
これ実にいいアルバムですよね、わたしもお気に入りです!
この素敵な曲紹介を読みながら聴くと、さらに楽しくなって(^ω^)
楽しいひと時を過ごせました、本当にありがとうございます。

by ひぐらし (2011-03-28 06:43) 

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