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「審判」(1963) [映画の観方]

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<監督>オ-ソン・ウェルズ
<出演>アンソニ-・パ-キンス、ジャンヌ・モロ-、オ-ソン・ウェルズ
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■モノクロ映画
「8 1/2」「博士の異常な愛情」「イレイザーヘッド」「街の灯」
僕の好きな映画にはなぜかモノクロの映画が多い。

そもそも映画というのは光と影の芸術で、
モノクロというのは、光と影のアンサンブルを最も効果的に見せてくれる。(モノクロの意義はその一点に集約されているといってもいい。)
だからよくできたモノクロ映画というのは、カラー映画にはない独特の美しさがある。

オーソン・ウェルズといえば、映画のランキングなどでは必ずといっていいほど上位に入る「市民ケーン」(最も権威ある映画団体の一つAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が1998年、映画誕生100周年を記念して選定したランキングで1位に選ばれる)が有名だが、個人的にはこの「審判」の方が好き。

「市民ケーン」は1941年の監督デビュー作(このときなんとウェルズ26歳!)だが、「審判」はその22年後だから、当然テクニック的にも洗練されてきているだろうし、映画監督としてもまさに脂の乗っている時期だろう。この難しい原作の映像化への挑戦に、彼の自信が見てとれる。

彼を評して“天才”とよくいうが、そんな彼の天才ぶりが存分に発揮されているのがこの作品だと思う。スキのない、完全にコントロールされた映像は、どこを切り取ってもポスターになりそうなくらい美しく、極端な話、音を消して映像だけ見ていても楽しめる。フランス、イタリア、西ドイツ製作という点から見ても、ハリウッド的な文脈から離れ、より自由度の高い芸術性を追求したものであることが伺える。

■不安感の演出
原作はカフカの不条理サスペンス。ある朝、部屋に突然刑事が入ってきて、罪状もよく分からないまま不当な逮捕を言い渡されるところから物語は始まり、まるで夢でも見ているかのような不条理な世界が次々に展開していく。

冒頭から見てみると、まずいきなりクレジットが流れる。古い映画などではたまに見るが、実はこれにもちゃんとした理由があることが最後に分かる。エンディングにはクレジットはなく、代わりにキャストを紹介するウェルズのナレーションで締めているのだ。

クレジットのあとは、クラシカルでもの哀しいテーマをバックに、紙芝居によってある寓話を説明しているのだが、これがアクセントとして利いている(紙芝居は最後にも登場)。この寓話もまた不条理であり、これから始まる物語を暗示している。

次に徐々にピントが合いながら、寝ている主人公の顔が映し出されるのだが、このとき顔の向きは図のようにあごが左上を向くような格好で、緊張感があり、なにやら普通じゃない感じを漂わせている。

起き上がる主人公の背後にカメラが回り込むと、真っ黒な影と化したその後ろ姿越しに、向いの白い壁の前に浮かぶ見知らぬ男の姿。光と影のコントラストが見事な象徴的なシーン。

その後、部屋の中で約4分間の長回しが続くのだが、カメラは人物の動きに合わせて、前後左右に動くだけでなく、時に下からのアングルになるなど、狭い空間(実際に低い天井!)で限定される動きの中で、決して単調にならず、飽きない画面。

またこのシーンでは、よく耳を澄まさなければ聞き逃してしまうほど微かに、時計の音らしきカチカチというクリック音が聞こえるのだが、これも不安感を煽るサブリミナル効果を狙ったものだろう。

こうしてみると、このオープニングにこの映画全体を貫く特徴的な点がすべてが見られる。

ポイントは以下の4つ。

①空間を感じさせるカメラワーク
冒頭の長回しに象徴されるように、スムーズで自由自在なカメラワークには本当に惚れ惚れしてしまう。空間を感じさせるカメラワークは、特に屋外、あるいはオフィスや法廷のような広い空間を効果的に映し出す。

②ダイナミックな構図
迫力ある下からのアングルや、遠近法によって奥行きを感じさせる構図、それにカメラの動きが有機的にからみ合い、画面に強力なダイナミズムを生みだしている。

主人公が初めて弁護士(ウェルズ)に会う場面では、遠近法の強調によりウェルズを実際より大男に見せ、巨大な壁(障壁)であることを示唆している。

光と影のアンサンブル
ウェルズはまるで光の魔術師とでも呼びたくなるほど、光を完璧に操っているようだ。揺れるランプの灯で見え隠れする顔。稲光りでの同様の効果。格子状の隙間から差し込む光。人物の影。半分だけ浮かび上がる顔(「ウィズ・ザ・ビートルズ」のジャケットを思わすような)、柱や手すり、はり巡らされた鉄骨などの映し出す幾何学的な影・・・それら光と影が織り成す一大パフォーマンスが画面に深みと複雑な表情を与える。

主人公が錯綜する光と影の中を走り抜けるシーンは幻想的で、バックに流れるアップテンポのフリージャズの焦燥感、追い掛けてくる子供の笑い声の不気味さも手伝って、最も印象的なシーンだ。

④音楽の効果
メインテーマは出口のない結末を暗示しているかのような、もの哀しさに満ちている。また不安を誘うようなフリージャズやサブリミナル的に訴えるクリック音(冒頭の時計の音の他、弁護士の屋敷で、主人公が別の被告人に秘密を打ち明けられる場面では、テンポが徐々に速くなっていくクリック音が聞ける)などが効果的に使用される。

以上4つのポイントはすべて不条理な出来事に対する不安感の演出という点に集約される。

思えば、彼を一躍有名にしたのは、H.G.ウェルズ原作「宇宙戦争」(現在スピルバーグ、トム・クルーズのコンビで映画化が話題の)のラジオドラマだった。当時、本当に宇宙人が襲ってきたと勘違いした人々が続出し、全米がパニックになったのは有名な話。このことは彼の演出がリアルであったことの証で、人々の不安感を操作するという点では、のちの「市民ケーン」「ストレンジャー」「黒い罠」などへと続いていくサスペンス的手法が、既に高い完成度にあったことを物語っている。

「審判」もそうした一連の作品の流れにあり、彼の得意とするサスペンス的演出が冴えわたる。と同時に、いやそれ以上に、彼の芸術性の高さだったり、モノクロの美しさを感じさせてくれる映画だ。


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